企業の「コスト」にはいろんな種類がありますが、その中でも損益に大きな影響を及ぼすものとして、「イニシャルコスト」があります。
今回は「イニシャルコスト」を中心とした解説を行ない、それに関連する言葉も含めて紹介しますので、参考にしていただけたらと思います。
内容としては、「イニシャルコスト」の意味と正しい使い方、また「イニシャルコスト」と似ている言葉・間違いやすい言葉になります。
「イニシャルコスト」の意味とは?
「イニシャルコスト(initial cost)」は一般的に、『初期費用』や『初期投資』などの意味で使われます。
『initial』は和訳すると『初期』や『初め』の意味で、名前のイニシャルも頭文字という意味から使われていますね。
管理会計上の『cost(費用)』を大きく分けると、『固定費』と『変動費』になりますが、「イニシャルコスト」は固定費に入ります。
『固定費』は売上の変動で増減する『変動費』と違って、売上の変動に影響されない固定の金額になります。
「イニシャルコスト」の主たる項目を、業務サイドの管理会計上の視点で挙げてみましょう。
一般的には、機械や建物などの設備投資費用、設計や技術開発費用、システムやソフトウェアの導入・開発費用などになります。
そして、これらに付随する運搬費用や設置費用も合わせたものの総額を、「イニシャルコスト」と言います。
つまり、実施しようと決めてから、実際にそれが稼働するまでにかかるすべての費用を、「イニシャルコスト」と考えていいでしょう。
一方、運営サイドで実務的に使われる、ビジネス用語としての「イニシャルコスト」は、以下のような意味で使われています。
それは、①「初期費用」、②「開発費」、③「導入費」という3つの意味の使い方です。
「初期費用」=「イニシャルコスト」と考えていいと思いますが、「開発費」と「導入費」は大きい「イニシャルコスト」という枠組みの中の1項目と考えてください。
「イニシャルコスト」は、企業全体の費用構造からみても、大きなウェイトになるのが一般的です。
したがって、企業が新規に何かを行なう場合には、まず最初の「イニシャルコスト」をいかに抑えるかが重要な課題となります。
「イニシャルコストを回収する」とは?
「イニシャルコスト」を回収するとは、発生した費用をその後に発生する利益で相殺し、計算上ゼロにまでもっていくことです。
たとえば総費用が1,200万円の機械を導入した場合で、具体的に説明してみましょう。
その機械を導入することで想定される、営業利益の金額は年間で250万円です。
そこから金融機関などの借入金の金利や、減価償却費などを差し引いて、実質利益が200万円とします。
そうすると、1,200万円÷200万円=6ですので、この機械の「イニシャルコスト」の回収は6年間になりますね。
回収期間は短いほうが、その後の利益が早く出ますので、財務的なリスクは少なくなります。
回収期間が長期に及ぶ計画だと、自社の利益構造への影響が長引き、外部環境変化のリスクも高まり、事前に綿密な計画を組む必要があります。
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「イニシャルコスト」の正しい使い方を例文で解説
ここからは、「イニシャルコスト」の正しい使い方を例文付きで解説していきます。
今回は、以下の2つのシチュエーションを想定して、「イニシャルコスト」の使い方を紹介していきます。
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①「初期費用」という意味で使われるイニシャルコスト
新規店舗の出店においては、建築・内装、保証金、人的採用、システム導入、販売促進などがあり、一時的に大きな費用が発生します。
また、新店で新たな実験を行なったり、アンテナショップ的な位置づけである場合は、追加の開発費や導入費も加わりますね。
シチュエーション
イニシャルコスト?えーと、どういう意味だっけ?
わかりやすい意味に変換
新店舗を出すにあたって、『初期費用』がいくらなのか把握してる?
概算ですが、2,000万円ほどだと聞いています。でも、回収できる見込みはあるそうですよ!
使い方の解説
ここで言う「初期費用」は、「イニシャルコスト」の中の1項目ではなく、すべての費用を含めた「イニシャルコスト」全体を意味しています。
店舗出店に際しては、この「初期費用」と、後に継続的に発生する「ランニングコスト」を合わせて、推定の損益計算が行なわれます。
店舗採算ベースの基準を満たさないものは、その時点で却下され、基準を満たすものだけが決裁会議に上程されます。
後述する「ランニングコスト」は、後ほど調整することも可能ですが、「初期費用」は後で調整できませんので、慎重な判断が必要です。
②「開発費」という意味で使われるイニシャルコスト
ここで言う「開発」の意味は、新たな付加価値を持つ製品・サービス・システム・ソフトウェアなどを、自社独自で実用化することです。
開発費用は何年か後に回収されて、後の企業利益に貢献するという前提の先行投資ですので、その見通しがないと開発着手の決裁は下りません。
シチュエーション
新しいアプリの『イニシャルコスト』はいくらかかりそう?今のうちに予算を確保しておきたいから教えて。
イニシャルコスト?この人は何を言っているのだろうか・・・。
わかりやすい意味に変換
新しいアプリの『開発費』はいくらかかりそう?今のうちに予算を確保しておきたいから教えて。
開発費は300万円ほどだと聞いています。意外と安くすみそうですね。
使い方の解説
「開発費」は、既存のものではない製品やサービス、またシステムやソフトウェアなど独自なものを、新たに作り出すために発生する費用のことです。
いくつかある「イニシャルコスト」の項目の1つと考えていいでしょう。
具体的な例を言うと、IOT対応家電商品、自社専用物流サービス、自動決済システム、新規アプリなどの開発費になります。
現在の開発は、ある意味で競合他社との時間の戦いですので、開発着手の決裁から実用化までの期間が短い企業が勝ち組になっていますね。
③「導入費」という意味で使われるイニシャルコスト
ここで言う「導入」の意味は、自社にない製品・サービス・システム・ソフトウェアなどを、他社から調達し自社で運用することです。
開発が自社での付加価値創造を目的とするのに対して、導入目的の多くは、自社の経費削減や効率改善や業務の質的アップのために行なわれます。
シチュエーション
このコミュニケーションツールは本当に便利だな!『イニシャルコスト』はいくらなの?
イニシャルコストってどんな意味だっけ・・・?
わかりやすい意味に変換
このコミュニケーションツールは本当に便利だな!『導入費』はいくらなの?
ビジネスプランだと半年で50万円と書いてありますね。
使い方の解説
これもいくつかある「イニシャルコスト」の項目の1つになります。
導入費は、自社に生産・開発のノウハウがなかったり、他社の既存のものがコスト安だったり、導入までの猶予期間が不足する場合に発生します。
他社から費用をかけてでも調達したいものであれば、その目的は明確であり、すぐに成果が出るものでなければなりません。
したがって、「導入費」は「開発費」と比較すると、短期で投資が回収され、すぐに利益貢献するような性格のものでなければなりません。
「イニシャルコスト」と似ている言葉・間違いやすい言葉
ここでは「イニシャルコスト」と似ている言葉や、間違いやすい言葉を紹介します。
それは「ランニングコスト」「トータルコスト」「損益分岐点」という、3つの言葉です。
この言葉は「イニシャルコスト」を理解するのに、サブ的要素として知っておくべき知識になります。
またこれらは、それぞれがビジネス用語として頻度の高い使われ方をしますので、合わせて理解しておいてください。
「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」の違いとは?
「イニシャルコスト」は、実施決定から稼働するまでにかかるすべての(初期)費用になります。
そして、稼働後にかかるすべての費用は、「ランニングコスト」と考えるとわかりやすいと思います。
つまり、「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」の違いは、稼働までの費用と、稼働のあとでかかる費用という違いになります。
費用区分は、「イニシャルコスト」が売上の変動に影響されない『固定費』であるのに対して、「ランニングコスト」は売上の変動で増減する『変動費」になります。
具体的に「ランニングコスト」の主だったものを挙げてみましょう。
たとえばそれが機械の場合は、設置・稼働してから稼働し続けるために必要な維持費のことです。
維持費とは消耗品費、メンテナンス費用、光熱費、保険、税金などですが、それにプラスして稼働を廃止(廃棄)する費用も含まれます。
また対象を企業全体に置き換えると、企業運営が支障なく継続して活動できるための運転資金が、「ランニングコスト」になります。
「イニシャルコスト」と「トータルコスト」の違いとは?
費用はその性格によって区分されますが、その区分方法は何種類かあります。
一般的なものとしては、『固定費』と『変動費』という区分と、「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」という区分の2つになります。
『固定費』と『変動費』の合計を『総費用』と言い、「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」の合計を「トータルコスト」と言います。
どちらを指標とするかは、それを利用する人の用途によって違ってきます。
企業の利益は、この「トータルコスト」をいかに抑えるかで決まってきます。
費用の性格上、通常の「イニシャルコスト」は初回のみの契約ですので、一度決まった費用は変更できません。
したがって、個別に「イニシャルコスト」を決定する場合は、その「ランニングコスト」も合わせた「トータルコスト」を意識した慎重な判断が必要です。
ある機械を例にして、1つの判断方法を具体的に説明しましょう。
この計算は、機械の品質や発生する利益金額は同等として、単純に計算します。
- 《A》パターン・・・イニシャルコスト(3,000万)、耐用年数(20年)、年間ランニングコスト(100万)
- 《B》パターン・・・イニシャルコスト(2,400万)、耐用年数(20年)、年間ランニングコスト(120万)
「イニシャルコスト」と「年間ランニングコスト×耐用年数」を合計した「トータルコスト」を、耐用年数で割ると、平均年稼働の費用がでます。
《A》パターンの平均年稼働費用は250万円で、《B》パターンは240万円になり、「トータルコスト」は 《B》パターンの方が安くなります。
ここで耐用年数を40年に変えた場合は、《A》パターンが175万円で、《B》パターンが180万円と、逆の結果になりますね。
「イニシャルコスト」と「損益分岐点」の違いとは?
「損益分岐点」は管理会計上の1つの考え方で、稼いだ金額と、その稼ぐために使った費用の金額が同じで、利益と損失がゼロになる場合です。
損益とはある一定期間の「損失」と「利益」のことですから、損失になるか利益になるかの分岐点ということになりますね。
基本的には「売上高」「固定費」「変動費」を用いて、「営業利益」を計算します。
数式としては、営業利益=売上高-固定費-変動費であり、このときに営業利益がゼロになる場合を「損益分岐点」と言います。
この数式からわかるように、利益を上げるには、売上高を増加させるか、固定費・変動費を縮小させるかになりますね。
企業はこの「損益分岐点」を指標にして、利益拡大のためのベストな戦略を模索します。
一般的に固定費は費用の中では大きなウェイトを占め、利益を出すためには固定費をいかに抑えるかが重要になっています。
前述しましたが、イニシャルコストは固定費に組み込まれています。
イニシャルコストは固定費の中でも占めるウェイトが大きく、「損益分岐点」を決める重要な要素になっています。
まとめ
従業員の「コスト」に対する意識は、企業にとって利益を出すための非常に重要な要因になります。
高い利益率で安定した業績を上げる企業に共通することは、そこで働く末端の従業員までもが、強い「コスト意識」を持っていることです。
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