過去の日本社会には、優れたノウハウを確立した企業は、それを独占して外に出さない風土がありました。
しかし、それを一企業が長期にわたって独占すると、経済や社会全体の革新スピードが停滞し、結果としてグローバルな競争力は低下していきます。
そこでそのノウハウをオープンにして、情報源も同業種から異業種、民間企業だけではなく産官学まで拡大しようとする考え方が出てきました。
これが、あらゆる分野の「成功事例」を取り入れ、日本経済全体を発展させ競争力の向上を狙うという、「ベストプラクティス」の基本的な考えになります。
今回は「ベストプラクティス」の、『意味』『使い方』「メリット・デメリット』『似ている言葉・間違いやすい言葉』を解説します。
また「ベストプラクティス」の企業事例もいくつか紹介しますので、参考にしていただけたらと思います。
目次
「ベストプラクティス」の意味とは?
「ベストプラクティス」は英語で「best practice」になりますが、一般的には“最良実施”“最優良事例”“成功事例”などの意味になります。
ビジネス用語の実務的な意味としては、“最も効率の良い方法”とか“成功事例”という捉え方が適切ですね。
企業は生産の効率化や業務の質的向上のために日々努力していますが、それを自社独自で行なうには多大な労力とコストが必要になります。
そこで他の企業の優れたスキルや成功事例を幅広く学び、自社のノウハウとして取り入れるものを「ベストプラクティス」と言います。
経済分野での「ベストプラクティス」は、製造、販売、医療、ソフトウェア開発、教育、道路建設、保険、会計など、幅広い分野で取り入れられています。
政府も“オープンイノベーションによる多様な新事業創造の実現”という観点から、大企業とベンチャー企業との取り組みなどを支援しています。
また日常のビジネスシーンでは、社内プレゼンや商談での成功事例のアピールなどの手法として使われています。
「ベストプラクティス」は、多くの企業によって反復・検証され、最も効率的で最良の方法であることが証明されたものでなければなりません。
特に技術の分野においては、「ベストプラクティス」の一種として「業界標準(デファクトスタンダード:de facto standard)」という言葉があります。
公的な機関としては、ISOやJISなどの国際標準化機関が定める「デジュールスタンダード(de jure standard)」がありますね。
「業界標準」はこの国際標準化機関の認定有無にかかわらず、サービス・製品・規格などが業界内で高く評価され、“事実上の標準”となっているものです。
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「ベストプラクティス」の正しい使い方を例文で解説
ここからは、「ベストプラクティス」の正しい使い方を例文付きで解説していきます。
今回は、以下の2つのシチュエーションを想定して、「ベストプラクティス」の使い方を紹介していきます。
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①「最も効率の良い方法」という意味で使われるベストプラクティス
“最も効率が良い”という意味は、企業経営的な発想としては、出来るだけ早く、そして結果としてのコストも安くという意味があります。
競合他社の存在もあり、じっくりと慎重に時間をかけての自社開発ではなく、他社のノウハウを導入してでも、競合他社に打ち勝ちたいということですね。
シチュエーション
ベストプラクティス?えーと、どういう意味だっけ?
わかりやすい意味に変換
競合に勝つためにも『最も効率の良い方法』の導入は必須だ!
たしかにそうですね。じゃあ、みんなでノウハウをシェアしましょうか!
使い方の解説
ここでは“導入”という言葉が使われていますが、その意味は“他所から取入れる”という意味です。
端的に言うと、“自社内で方法を見つけるのではなく、自社の方法よりも優れた方法を他社からでもいいから探して来い”という意味です。
少なくても競合他社との時間的な競争に勝つためには、他社から「最も効率の良い方法」を導入するのも構わないと言っています。
②「成功事例」という意味で使われるベストプラクティス
何か新たな取り組みを行なうとき、自社単独のノウハウだけでの実施では、リスクが高くなる局面が出てきます。
そんな時には、他社の過去の成功事例を参考にして解決することで、そのリスクを軽減化することができます。
シチュエーション
『ベストプラクティス』を研究することは大事だよ。
ベストプラクティスってどんな意味だっけ・・・?
わかりやすい意味に変換
『成功事例』を研究することは大事だよ。
たしかに、真似できるところは真似した方がいいですよね。
使い方の解説
ここでの会話では、“研究する”という言葉と“真似する”という言葉が使われています。
この“研究する”とは、学術的意味ではなく他社の「ベストプラクティス」から、成功するための条件を導き出せという意味です。
そして“真似する”とは、その「ベストプラクティス」を自社でも成功するように、自社の企業体質に適合させるように創意工夫しなさいという意味です。
つまり「ベストプラクティス」を導入し成功させるには、導入以前の事前準備の段階から重要だということです
ベストプラクティスのメリット
企業が「ベストプラクティス」を積極的に取り入れるのには理由があり、その主なメリットを紹介しましょう。
まずは自社の現在の風土からでは生み出されない、他社の斬新で独創的なアイデアを取り入れられることです。
そしてそれは、他社によって反復・検証され、最も効率的で最良の方法であることが証明されたものです。
さらにそれは、実績に基づいた成功の可能性が高いものであることから、社内での合意も比較的に得やすくなります。
次のメリットとしては、それを取り入れることによって、業務の効率アップが期待できることです。
具体的には、生産現場における工程や技法の効率であったり、後方部門の処理能力の効率化であったりします。
「業界標準」の例を挙げると、業界内のサービス・製品・規格や各フォーマットに「ベストプラクティス」を導入することで、業界全体の業務の効率化が実施できます。
ベストプラクティスのデメリット
「ベストプラクティス」を取り入れる“タイミング”と“レベル”と“内容”を誤ると、逆にデメリットになる可能性があります。
タイミングとしては、ベンチャー企業の成長期や、企業活力が沈滞化傾向の企業などでは、有効に活用できる手法になりますね。
しかし、企業基盤が確立され活発な企業活動が行なわれている時期には、あえて取り入れる必要はなく、逆に取り入れることで混乱を起こす可能性があります。
いかに優れた「ベストプラクティス」であっても、自社では実現不可能なレベルのものを取り入れることは、消化不良を起こし徒労で終わります。
「ベストプラクティス」を自社内で100%実現可能にするには、自社の能力(人材、スキル、資金力など)に相応したレベルの選択が必要です。
内容としては、経営者の10年後の『夢』や『ロマン』的な発想からくる内容では、現場の士気が低下する恐れがあります。
逆に、現場サイドの必要性を優先させ、現状の課題を解決するものとして位置付けると、現場のモチベーションアップにもつながってきますね。
ベストプラクティスの企業事例まとめ
「ベストプラクティス」は現在、政府の各省庁の支援もあり、あらゆる分野で、また様々な形態での取組が行われています。
ここでは経済産業省が発表した『ベストプラクティス事例集』から抜粋して、具体的な企業事例をいくつか紹介したいと思います。
サブタイトルが“大企業とベンチャーがWIN-WINの発展を実現するための”ですので、ベンチャー企業と大企業による「ベストプラクティス」の活用例になります。
ここではベンチャー企業を支援する大企業を、起業を支援した“産みの親”と、育成した“育ての親”という2つの役割に区分しています。
企業事例①『企業名:プロパティデータバンク』
- 産みの親:清水建設
- 育ての親:東京海上日動、J-REITファンド各社、国土交通省、日本郵政、東京都庁など
〈事業概要〉
不動産マネジメント及び情報の一元管理を支援するASP/SaaSサービス事業を展開。
〈ベストプラクティス〉の内容
清水建設から別会社化することで、業界の共通プラットフォーム型ビジネス(協調領域)を創出しました。
そのための準備として、社内ベンチャー制度を活用し、現職場での仮想ビジネス(予行演習)を実施しています。
またビジネスプランの検討段階から、大企業のネットワークを活かし関連企業の参画を要請し、これらをビジネスパートナーとしました。
企業事例②『企業名:ランドソリューション』
- 産みの親/育ての親:栗田工業、DOWAエコシステム、損保ジャパン、日本不動産研究所
〈事業概要〉
別会社化することで、異業種のノウハウの持ち寄りによる新事業を創出。
〈ベストプラクティス〉の内容
単独では不可能であった、土壌汚染に係るトータルソリューション事業を創造しました。
そのことで、新たな事業価値、営業機会の創出が実現しました。
企業事例③『企業名:ラティステクノロジー』
- 産みの親:リコー
- 育ての親:トヨタ
〈事業概要〉
自社ノウハウや要求仕様を『ラティステクノロジー』に提供し、忍耐強く指導・育成することで、双方の技術や製品の完成度を高めることに成功しました。
出資することで協力パートナーとしてのWIN-WINの関係を強化、また公的評価機能を利用し企業発の高い技術力をアピールしました。
〈ベストプラクティス〉の内容
トヨタをユーザーとしての協業により、製品開発と市場創造に成功しました。
さらに自社技術をグローバル規模で普及することを推進し、世界的な高い評価を基に世界基準への発展を目指しています。
「ベストプラクティス」と似ている言葉・間違いやすい言葉
ここでは「ベストプラクティス」と似ている言葉や、間違いやすい言葉の代表的なものを紹介します。
「ベストプラクティス」を把握する上で、関連する知識として必要な言葉ですので、その内容をしっかり理解してください。
「ベストプラクティス」と「感染管理ベストプラクティス」の違いとは?
「ベストプラクティス」は幅広い分野で取り入れられていますが、その中でも医療分野で取組まれているものに「感染管理ベストプラクティス」があります。
感染管理とは、医療施設内での感染の『予防活動』や『流行対策』を目的にしたもので、その「ベストプラクティス」を「感染管理ベストプラクティス」と言います。
社会全体の活動としては公衆衛生管理がありますが、感染管理は特定の医療施設に限定されて行なわれている活動です。
病院の医療安全管理体制の基本項目でもあり、活動は『感染制御チーム』が中心になり、関連部署と連携しながら予防・対策・制御を行ないます。
「ベストプラクティス」と「ベタープラクティス」の違いとは?
「ベストプラクティス」と「ベタープラクティス」の違いを一言でいうと、実施する企業にとって、手法が「改革的」なのか「改善的」なのかの違いですね。
「ベストプラクティス」は、今までの社内の手法とは異なったものを社外から導入するのが通常で、一般的には個人の判断で決められるものではありません。
一方の「ベタープラクティス」は、社内の日常業務の中で、各個人が今のやり方よりも優れた方法を工夫して取り入れることです。
「ベストプラクティス」の情報ソースは外部からであり、取り入れる範囲は少なくても事業部単位とか全社レベルになります。
逆に、「ベタープラクティス」の情報ソースと取り入れる範囲は、自社内の個人レベルから広くても部門内までとなるのが通常です。
「ベストプラクティス」と「ベンチマーキング」の違いとは?
「ベンチマーキング」は「ベストプラクティス」を実践する前の事前準備と、実施途中の期中チェックになります。
まずは自社に導入できそうな「ベストプラクティス」の選定が必要ですね。
複数の候補の中から、自社に導入できそうな「ベストプラクティス」を選び、その内容を分析しなければなりません。
そして、他社の「ベストプラクティス」をまったく同じ手法では実践できませんので、自社に適合させていく作業が必要になります。
このように、「ベンチマーキング」と「ベストプラクティス」を一連の流れで実践することで、導入成功の可能性は高まってきます。
まとめ
「ベストプラクティス」は現時点ではベストであっても、技術革新などで既存の発想を超える手法が出てくると、その時点でベストではなくなります。
新しい「モノ」であろうと新しい「コト」であろうと、企業は“何かを創造する”という姿勢を失ってはいけません。
もし、業界をリードするトップ企業を目指すのであれば、自社のメイン分野で「ベストプラクティス」を導入するのではなく、欠落している分野の補完として「ベストプラクティス」を検討してください。
⇒もっとビジネス用語を知りたいという方向けにビジネス用語が学べるおすすめの本5選を紹介しています。
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競合に勝つためにも『ベストプラクティス』の導入は必須だ!