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病院小児科医・小児人口が少ない二次医療圏での小児科医求人の実態―小児科医不足との相反
地方の医師の不足が社会的な問題になっていますが、都市部と地方の間における医師の求人傾向の違いについては十分な検討がされていません。
そこで、平成22年9月に公表された必要医師実態調査と、同じく平成22年の住民基本台帳をもとにして、二次医療圏においての小児科医の求人の有無とその地域における病院勤務の小児科医師数や小児人口、さらに、病院勤務の小児科医師数と小児人口の関係について検討しました。
二次医療圏とは
医療圏とは、地域の実情に見合った医療を住民に提供する体制を確保するために各都道府県が設定している地域単位の事です。
基本的に市町村単位で日常生活に密着した保健医療を提供する一次医療圏、複数の市町村にまたがって健康増進や疾病予防、入院治療といった一般的な保健医療を提供する二次医療圏、先進的な技術を必要とした特殊な医療に対応する三次医療圏に分けられています。
特に、二次医療圏は医療法施行規則の中で「病院における入院に係る医療を提供する単位の確保を図ることが相当であると認められるものを単位として設定すること」と規定されています。
つまり、手術や救急などの一般的な医療について、地域で完結することを目指し、地域ごとに必要な入院ベッド数や地域的なつながり、交通事情などを考慮して定められた複数の市町村で構成されている地域を指しています。
資料および解析方法
厚生労働省は、全国すべての病院と分娩を取扱っている診療所10,262施設に対して、必要医師数を調査し、その結果を平成22年6月に発表しています。
この中では、現在の病院医師数と求人数(非常勤は週40時間で常勤換算)が、診療科別、県別、二次医療圏別に示されています。
今回検討するにあたって、この必要医師数実態調査を資料として用いました。
また、それぞれの医療圏における小児人口(14歳以下)は住民基本台帳を、各二次医療圏を構成する市町村名は、平成20年の医師歯科医師薬剤師調査を参照しています。
これらの資料から、二次医療圏における病院勤務の小児科医師の人数、小児人口、小児人口1万人あたりの小児科勤務医の人数の3点について規模別に分類し、小児科勤務医の求人実施率に差があるかどうかを検討しました。
結果
①小児科勤務医数による規模別求人状況
小児科勤務医が20人を超えている二次医療圏で求人を実施している地域は、全体の9割を超えている一方、小児科勤務医が10人未満の二次医療圏では求人を実施しているのは62%にとどまっています。
また、小児科勤務医が10~20人未満の地域では求人を実施している地域が90%であるのに対して、20~30人未満の地域では96%、30~50人未満の地域では95%、50~100人未満の地域では98%、100人以上の地域では92%となっていました。
②小児人口による規模別求人状況
二次医療圏の小児人口が2万人以下では、小児科医の求人がある地域が59%と低い数字になっていましたが、小児人口が2万人以上の地域では85%以上で小児科医の求人が実施されていました。
また、小児人口が2~4万人未満の地域では86%、4~6万人未満の地域では94%、6~10万人未満の地域では96%、10~20万人未満の地域では93%、20万人以上の地域では100%という結果になりました。
③小児人口1万人あたりの小児科勤務医の人数による規模別求人状況
小児人口1万人あたりの小児科勤務医1人未満から6人以上の規模別に分類して検討した結果、小児人口に対する小児科勤務医の人数に関係なく、求人を実施している地域は6~8割台となっていました。
考察
今回の検討から、小児科勤務医の人数や小児人口が少ない二次医療圏では、小児科医の求人を実施している地域が少ないことが明らかになりました。
しかし、小児人口1万人あたりの小児科勤務医の人数と小児科医の求人を実施している割合には因果関係が認められませんでした。
小児科勤務医および小児人口が少ない地域で求人が少ない要因として、経営的な理由で医師の雇用を増やせない可能性が考えられます。
医師数も小児人口も少ない地域において医師の雇用を増やすと、医師1人当たりの患者数が極端に減り、経営を悪化させてしまうことは容易に想像できます。
しかし、週40時間の法定労働時間で、24時間365日、必ず1人の小児科医を病院に常駐させるためには、4.2人の医師が必要です。
さらに外来や検査がある日中は複数の医師が必要であることも踏まえると、全国に154地域、全体の44%を占める、小児科勤務医が10人未満の二次医療圏では、24時間365日小児科医による小児医療を提供するというのは現実的ではないと言わざるを得ません。
では、小児科医も小児人口も少ない地域の小児医療を確保するためには、どのような方策が必要なのでしょうか。
まず、複数の二次医療圏が共同で広域的な医療体制を構築することが考えられます。
それぞれの地域で小児科医や小児人口が少ないとしても、複数の二次医療圏が共同で1つの医療圏を構築することができれば、24時間365日の小児医療が確保でき、経営的にも大きな影響を与えません。
とはいえ、山間部や離島など、小児科医や小児人口が少なくても地理的な理由で小児医療提供の広域化が実現困難な地域も日本には多く存在します。
これらの地域においては、診療報酬以外に国等の補助金などを用いて、小児医療を提供するための経営支援を行い、非常勤小児科医による支援などを充実させる必要があります。
小児科医や小児人口が少ない地域では、どうしても少ない患者が散発的に受診するという状況が生まれ、経営状況は良くないものの医師が長時間拘束される頻度が高くなってしまいます。
このままの状況では医師は疲弊し、退職などによって地域医療が崩壊することも十分に考えられます。
地域の医療が崩壊することを防ぐためにも、常勤・非常勤に関わらず医師を増員しても経営状況を悪化させないような制度を設計していくことが不可欠です。
小児科医や小児人口が少ない地域で小児科医の求人が少ない理由を検討するために考慮されること
今回は資料から読み取れる人数で、小児科医や小児人口が少ない地域において小児科医の求人実施率は低い理由を検討しましたが、この件を検討するためには以下の5点についても考慮する必要があります。
1.医師の定着率・勤続年数における地域差
小児科医や小児人口が多い都会には、医療技術の習得を目的とした若手医師が集まる傾向があります。
そういった目的を持っている若手医師が短期間で職場を移ることによって、首都圏などを中心とした小児科医や小児人口が多い地域で求人実施率が高い可能性も考えられます。
2.常勤・非常勤の地域格差
小児科に限定されることではありませんが、非常勤医師の比率は地域によって異なっていることも考慮する必要があります。
3.受療行動の地域格差
0~4歳児10万人あたりの歯科を除いた外来患者数は、全国値5,670人に対して、最大値の岡山県では9,235人、最小値の神奈川県では3,823人となっています。
また、同じく0~4歳児10万人あたりの入院患者数も、全国値370人に対し、最大値の高知県では513人、最小値の石川県では237人となっています。
このように、病院を受診したり入院したりする人数が都道府県によって大きな差があることも、小児科医の求人実施率と関わりがあると考えられます。
4.人的資源と物的資源の地域格差
医師や病院の質や、地域の中核病院を支えている開業医その他のマンパワーも地域によって差があることも考慮しなければなりません。
5.他診療科医師の小児診察への参加の地域差
地方では、小児科医以外の診療科の医師が小児の診療を行う比率が高いと思われるので、専門の小児科医師の求人がないことも考えられます。
病院小児科医・小児人口が少ない二次医療圏での小児科医求人の実態―小児科医不足との相反
http://plaza.umin.ac.jp/~ehara/my_paper/gakkai2011_9.pdf