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法務省|矯正施設の医療の在り方に関する報告書
○はじめに
矯正施設における医療(以下「矯正医療」という。)は「崩壊・存亡の危機」にあります。その大きな理由は、矯正施設が陥っている深刻な医師不足にあります。
この問題を解決することを目的に、平成25年に行われた第1回の検討会以降、4回にわたり矯正医療の在り方について議論を重ねた内容をまとめ上げました。
○矯正医療の現状と問題点
・矯正医療の目的
矯正施設は、刑事事件又は少年事件について、裁判の執行を受ける者を収容し、その人権を尊重しつつ適切な処遇を行うことを目的としています。
さらに自由刑又は保護処分等の執行を受ける者については、その改善更生と円滑な社会復帰を図り、再犯及び再非行を防止することを使命としています。
その目的を達成するためには、矯正施設に収容されている者(以下「被収容者」という。)に必要な処遇を受けさせる必要があります。
●矯正医療の体制
矯正施設のうち、刑事施設は188施設、少年院は52施設、少年鑑別所は52施設、婦人補導院1施設です。
矯正医官は、常勤として332名の定員でこれらの施設に配置されることになっています。しかし、平成25年4月1日時点で、現員260名と72名の欠員が生じ、定員の2割以上が満たされていない状況です。
さらに矯正施設では、被収容者の高齢化や生活習慣病の増加、疾病の複雑化、一般社会における医療水準の高度化などの諸事情があいまって医療需要が増加しています。
そのような状況でも矯正施設の大半においては、医師不足等によりかかる需要に十分対応することが困難です。
●矯正医官の待遇
矯正医官の給与は法律に定められており、一般の医師と比べて格差があります。
勤務時間は原則午前8時半から午後5時までですが、場合によっては時間外勤務や当直勤務のある施設もあります。
また、医療技術の低下を防ぐため、週2回程度を研修日として実施していますが、矯正医官ごとにいくつかの厳格な確認が必要であり、研修の実施に支障を生じています。
さらに、無給での研修を認めない医療機関が少なくないことから、国家公務員法制により無給を原則としている矯正医官の臨床研究実施機関の確保にも支障を来しています。
国家公務員である矯正医官は、職務に専念する義務が課されていますし、定年は65歳までと定められています。
●矯正医療の特殊性・困難性
特殊な環境下で特殊な患者を対象として行う医療のため、矯正医官は日常的に相当のストレスにさらされていると指摘できます。
被収容者は矯正医官を選ぶことはできず、矯正医官もまた被収容者の治療を拒否することができません。
中には詐病を用いたり、矯正医官を脅したりする被収容者も存在します。
医療費は公費のため、執拗に診察や薬剤の処方を要求されたり、逆に治療を拒否しても措置を執らなければならない場合もあります。
このような状況では信頼関係は構築しにくく、精神的な負担も大きいと言えます。
このように給与面の格差だけでなく、様々な制約や精神的な負担があり、矯正医官不足の背景には想像以上の問題が山積みと言えます。
看護師など矯正医官以外の医療従事者も十分ではなく、医療設備・機器も一般の病院に比して乏しく、このことも矯正医官不足の一因になっています。
にもかかわらず、社会的にも評価されにくく、業務も過酷な矯正医官の現状は社会一般に知られておらず、これまで十分な方策が採られてきたとは言い難い状況です。
○矯正医療の充実強化対策のための基本的な考え方
矯正医療崩壊の危機を打開し、矯正医療を充実させるためには、以下の視点で臨むべきです。
@矯正医療崩壊という危機意識の共有
国は矯正医療が国の重要な責務であり、直ちに抜本的な対策を講じなければ、矯正医療は早晩崩壊することを認識しなければなりせん。
また、社会においても、矯正医官の不足が国民生活に及ぼす影響を考える必要があります。
A常勤の国家公務員としての矯正医官の確保の要請
被収容者の健康の保持及び矯正施設内の衛星の保持は国の責務であり、医師は矯正施設における医療全般の責任者であることに鑑みれば、矯正医療に従事する医師は、原則として「常勤」の国家公務員であることが必要です。
B矯正医官に対する認知度の高揚(矯正医官へのリスペクトの形成)
矯正医療及び矯正医官についての社会一般の認知度を高め、国民の理解を得るとともに、円滑かつ効率的に業務を遂行することができるよう環境整備を推進することが重要です。
C地域医療との共生
医師不足は単に矯正施設だけに限った問題ではなく、広く国民生活全般における問題でもあります。
地域医療との連携・共生を目指すことで、地域医療と矯正施設が共に潤い、矯正施設の安定運営や地域医療の向上につながるものと考えられます。
○矯正医療の充実強化策
先ほども述べたように、矯正医療は様々な問題に直面しています。
これらの問題点を解決し、充実強化を図る上において、早急に次のような対策を講ずる必要があります。
@矯正医療について国民の理解を得るためにすべきこと
矯正医療を含めた矯正行政に関する広報を積極的に行うことはもとより、矯正医官に対する評価を高めることが肝要です。
一般社会に向けて積極的に矯正医療の存在をアピールし、医学教育や法学教育の場においても、矯正医療に関する講義の場を設けることや、メディア等に協力を求める努力も必要です。
A矯正医官の待遇改善
矯正医官を確保するために、給与水準の改善や勤務時間の見直し、研修の在り方や兼業の許可の弾力的運用、定年年齢の見直しなど、様々な条件を改善する必要があります。
と同時に、女性医師の勤務しやすい環境整備を進めることも考えるべきです。
B執務環境等の充実
矯正施設は医師不足のほかにも、看護師等医療従事者不足や、設備の不十分さなどの問題も抱えています。執務環境等の充実を図るためには、関係機関や国民の理解を得て、財政的支援を行うべきでしょう。
C医学研究に対する支援の充実
現状では十分な手当てがなされているとは言えないため、寄附講座による大学からの派遣制度や、研究費の創設も視野に入れて検討する必要があります。
D地域医療との共生・連携強化及び矯正医療の外部委託の在り方
地域医療機関や医師会、厚生労働省との
連携を強化し協力を進めることや、被収容者の診療を受け入れる外部医療機関等に対する医療費等の支払いについて、何らかの評価・措置をなすべきです。
Eその他
矯正医官を確保するために、矯正医官修学資金制度の見直しや、広報活動の拡大も必要です。
また、日弁連の提言も参考にしつつ、あらゆる視点から矯正医療体制の充実強化に向け尽力を求めたいものです。
○改革へのみちすじ
本報告書では、矯正医療及び矯正医官に対する国民の認知度の高揚など、直ちに実施できる施策と、矯正医官の待遇改善等新たな法令の整備を前提とするものや、予算や人員増員を要するものなど、実現に苦労が伴うであろう施策を提言しています。
現行制度の運用によって解決可能な問題については、直ちに運用改善を実施すべきです。
また、矯正医官の特殊性・困難性を説明した上で、政治レベルにおける理解と協力をし、関係省庁等に対する働き掛けを直ちに始めるようお願いしています。
たゆまぬ尽力により、矯正医療に携わる医療関係者が誇りと使命感をもってその任に就き、被収容者の改善更生・社会復帰という矯正施設に求められる社会的使命を達成されることを期待し、成果に注目していきたいものです。
矯正施設の医療の在り方に関する報告書
http://www.moj.go.jp/content/000118361.pdf