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財務省|日本のプライマリ・ケア制度の特徴と問題点
○論文の背景と目的
わが国の政府債務残高は世界的にも未曾有の規模となっています。
日本の基本的財政収支を黒字化するために欠かせないのは、歳出改革です。
そして、財政赤字の大きな理由の1つである社会保障給付費を減らすためには、医療制度改革が必要なのです。
医療制度改革を進める上では、「病気を治す」医療から「健康を維持する」医療へ転換することが大切です。
そこで、現在のプライマリ・ケアが抱える問題を明らかにし、今後のわが国のプライマリ・ケアのあり方や疾病管理に対する新たな知見をもたらすことを期待して、この研究を行いました。
研究は2部構成です。
まず、医療制度満足度に関するアンケート調査で、わが国の医療提供体制に対する国民の評価の分析しました。
それから、レセプトデータの解析を通じて生活習慣病におけるケアのばらつきを明らかにし、頻回な受診の効果を評価しました。
○医療制度に対する国民の満足度調査
過去の様々な調査によって、日本は医療制度全般に満足している割合が他国と比べて低いことがわかっています。
日本の医療制度はいつでもかかりたい医療機関を受診できるにもかかわらず、なぜ満足度が低いのかが疑問点と言えます。
日本人の国民性だけでは説明できない、日本の医療制度の抱える問題点がそこにあるのではないでしょうか。
〈調査方法〉
18歳以上の男女を対象とし、地域・年齢・性別で層別化し、各層から同数ずつサンプリングしてインターネット調査を行いました。
調査期間は2014年4月1日?4月7日で、年齢・性別・学歴・年収・健康状態などの基本情報にプラスして、@医療制度全般に対する意見、A医療へのアクセス、B医療費の自己負担、Cかかりつけ医に対する意見、D入院や救急受診の経験、E医療の質に対する認識などを尋ねました。
〈考察〉
今回の調査結果によると、日本人の医療制度満足度の特徴は「わからない」と答える人が、全回答者のうち16.7%と多いことがわかりました。
逆に、比較的収入が多い高齢者には、日本の医療制度は「必要な時に最良の医療を受けることの出来る」という意味で満足度が高いようでした。
もう1つの特徴として、医療制度に対して「ほとんど改革の必要がない」と答えた人が4.35%しかいないことも挙げられます。
今回の回帰分析の結果、かかりつけ医の有無や、夜間・週末・休日に診療を受ける容易さが、医療制度の評価に大きく影響している事が示唆されました。
日本では地域医療に関するデータベースも貧困で、外来診療で医師たちが参考にする診療ガイドラインも費用対効果を重視したものとはなっていません。
日本の地域医療の実態はどうなのか、次の調査で分析してみました。
○生活習慣病の診療分析と日本のプライマリ・ケアの問題点
わが国における医療の質の問題は、そもそも診療の実態を知るためのデータがほとんど利用できないことにあります。
プライマリ・ケアを主とする外来診療の実態は、ほとんど明らかにされていないのです。
そこで、この研究では以下の3つの目的を持って行いました。
@レセプトデータを用いて生活習慣病(高血圧・糖尿病)の外来診療の実態や診療のばらつきを明らかにすること
A生活習慣病の診療のばらつきを生み出す地域要因を検討すること
B生活習慣病のケアにおける頻回な受診の効果を検討すること
〈調査方法〉
@協会けんぽのレセプトデータ(2013年4月?7月)、A2013年度の特定健診のデータ、B平成22年度国勢調査、C平成24年度医師・歯科医師・薬剤師調査のデータを利用して行いました。
〈考察〉
今回の調査結果によると、生活習慣病で受診している患者の1人あたり外来医療費には、かなりの地域格差が見られました。
詳しく見てみると、診療所・病院に拘わらず医師密度が高くなるほど、1人あたり医療費は増加傾向にありました。
また、診療所と病院を比べてみると、診療所は1度の外来医療費は低いが頻回な受診、病院は受診頻度が少なくても1度の外来医療費が高いことがわかりました。
しかし、医師が豊富で受診頻度が高くても、疾病管理という側面から見た医療の質にはほとんど効果はありませんでした。
○まとめ
現在のプライマリ・ケアの主要な問題点は大きく分けて2つあります。
まず、「情報提供の仕組み」です。
日本の医療制度では病気や気になる症状が出て初めて医療機関にかかる仕組みになっており、健康時から継続的に地域住民の健康状態を把握している医療者がほとんどいません。そのため、緊急時に医療機関を選ぶ情報源として、友人・知人の意見やインターネットなどの情報に頼ることになり、信頼できる情報が不十分と言えます。
また、「かかりつけ医」がいても、夜間や休日の救急時に必要な医療を受けられないと思っている人が多いことも、日本の医療制度に関する不満が多い理由の1つです。
診療の質とコストを評価し管理するシステムが欠如していることも、日本のプライマリ・ケア制度の特徴です。
レセプトデータを用いてわが国の生活習慣病(高血圧・糖尿病)の外来診療を解析した結果、生活習慣病の診療には大きな地域差があり、特に1人あたりの外来医療費や受診間隔の差が大きいことが明らかになりました。
この差は患者の属性や臨床特性で調整しても説明できませんでした。
これは診療の標準化の欠如を示しているとも考えられます。もっとも顕著に表れているのは、診療所と病院の受信間隔の差が大きく平均して2倍もあった点です。
受診頻度の医学的効果を検討するために、特定健診を受診した患者を対象として、受診間隔と疾患コントロール(血圧コントロール・血糖値コントロール)との関連を検討しましたが、推定の結果受診間隔は疾患コントロールとほとんど関連しないことがわかりました。
受診頻度が医学的な必要性と無関係に決められている現在の状況は、好ましくないと言えるでしょう。
本来治療の選択は費用対効果と安全性を考慮して判断されるべきであり、日本の診療ガイドラインの推奨にも、世界各国が取り入れている費用対効果の視点を入れるべきです。
これらの問題の解決策として、プライマリ・ケアにおいて、患者を長期間、生活している場に近い場所で見守る近接性を確保する仕組みが必要であると言えます。
例えば、
@フリーアクセスのゆるやかな制限やかかりつけ医の登録
A生活習慣病を含むプライマリ・ケアにおける包括支払い制度、あるいは人頭払い制度の一部導入
などが考えられます。
また、どの地域でも一定水準のプライマリ・ケアが提供できる体制を整備するためには、専門分野としてのプライマリ・ケアの教育は不可欠です。
2017年から基本領域に確立されようとしている総合診療専門医は、プライマリ・ケアに特化した医師集団の向かうべき方向性を専門医として示すもので、極めて重要であると言えます。
効率的に地域を見守ることを可能にするために、診療所でもグループ診療を推進することが大切です。
グループ診療とは、複数の医師を配置するだけでなく、多職種を集約した施設を作ることです。
それによって、診療範囲や24時間診療、時間外診療の制限、僻地における医師の無力感や長時間拘束を防ぎ、診療能力の向上や医療安全に大きく寄与するでしょう。
国民の医療制度への満足感と健康度を高めるためには費用対効果に優れたプライマリ・ケアの整備が不可欠です。
それは単なる医療費抑制ではなく、医療の質を高めながら財政にも寄与するからです。
日本のプライマリ・ケア制度の特徴と問題点
https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list7/r123/r123_02.pdf